犬がくるくる回る行動は、喜怒哀楽の表現から、身体の不調、さらには病気のサインまで、実に多様な理由が考えられます。
愛犬がなぜそのような行動をとるのか、その背景を理解することは、愛犬の心と体の健康を守るための第一歩となります。
単なる癖だと見過ごさず、日頃から愛犬の様子を注意深く観察し、その行動の意味を読み解くことが大切です。
□犬がくるくる回る原因
*嬉しい時の回し方
愛犬が飼い主さんの帰宅を喜び、興奮してその場でくるくると回る姿は、多くの飼い主さんが経験することでしょう。
また、大好物の食事やおやつを前にした時の期待感、あるいは大好きな遊びの始まりを予感した時にも、同様の行動が見られます。
これは、喜びや期待といったポジティブな感情が高まり、それを表現するための自然な行動です。
この場合、愛犬の興奮をさらに煽るのではなく、少しの間待って落ち着かせることで、感情のコントロールを促すことも可能です。
例えば、おやつをすぐに与えるのではなく、一度「待て」をさせてから渡すといったトレーニングを取り入れることで、興奮を上手に抑えることを学習させることができます。
*寝床を整える行動
犬が眠りにつく前に、寝床をくるくると回ってから落ち着くという行動は、彼らの祖先である野生のオオカミの行動の名残と考えられています。
当時は、地面に直接寝ていたため、寝る場所を整え、草などを踏み固めて、より快適で安全な寝床を作ろうとしていたのです。
現代の家庭犬においても、この本能的な行動は受け継がれており、敷かれているタオルや毛布などを、自分の体に合った形に整えようとしていると考えられます。
これは、犬がリラックスし、安心して眠りにつくための準備行動であり、基本的には心配する必要はありません。
*排泄前のサイン
犬の中には、排泄の前にくるくる回る習性を持つ子がいます。
この行動の理由については、いくつかの説が存在します。
一つは、野生時代に周囲の安全を確認したり、排泄する場所の地面をならしたりしてから排泄を行っていた名残だという説です。
もう一つは、地球の磁場との関連を指摘するユニークな研究結果もあります。
この研究では、犬が排泄する際に、地球の磁場に沿って体を整えている可能性が示唆されています。
いずれにしても、これは犬の本能に基づいた行動であり、通常は心配いりません。
しかし、屋外でくるくる回っている際に、段差につまずいてしまったり、思わぬ危険に遭遇したりする可能性もゼロではありません。
そのため、愛犬が排泄のために回っている際には、安全な場所であることを確認し、注意深く見守ってあげることが大切です。
*遊びや興奮
特に子犬によく見られる行動ですが、成犬になっても、自分の尻尾を追いかけてくるくる回る姿は、遊びの一環であることが多いです。
「テイル・チェイシング(尻尾追い)」と呼ばれるこの行動は、多くの場合、犬が楽しんでいるサインです。
しかし、成犬が過度に、あるいは執拗にこの行動を繰り返す場合は、ストレスや不安、退屈さの表れである可能性も考えられます。
愛犬がどのような状況で尻尾を追いかけているのか、その頻度や様子を注意深く観察し、もし過剰な行動が見られるようであれば、遊びの時間を増やしたり、新しい刺激を与えたりするなどの工夫が必要かもしれません。
*違和感や不調
愛犬がお尻やしっぽの周りを気にし、くるくる回る行動をとる場合、その部分に何らかの違和感や不快感、あるいは痛みがある可能性が考えられます。
例えば、ノミやダニなどの寄生虫によるかゆみ、肛門腺のトラブル、あるいは外傷などが原因となっていることがあります。
愛犬の体に異常がないか、優しく触れて、皮膚の状態や腫れ、傷などがないかを確認してあげましょう。
もし気になる点があれば、早めに動物病院で診てもらうことをお勧めします。
*ストレスや不安
環境の変化(引っ越し、新しいペットの家族、家族構成の変化など)、運動不足、飼い主さんとのコミュニケーション不足、あるいは過去のトラウマなどが原因で、犬がストレスや不安を感じている場合、くるくる回る行動でそれを表現することがあります。
特に、他の理由では説明がつかないのに、同じ行動をしつこく繰り返す場合は注意が必要です。
このような行動がエスカレートすると、自己を傷つける行為(自傷行為)につながる可能性も否定できません。
愛犬がストレスを感じているサインを見逃さず、その原因を特定し、可能な限り取り除いてあげることが、愛犬の心の健康のために非常に重要です。
*病気の可能性
上記のような理由に当てはまらないにも関わらず、愛犬が無感情な様子で、あるいは一点を見つめるようにしてくるくる回り続ける場合は、病気の可能性が疑われます。
特に、老犬の場合、認知症(高齢性脳機能不全)や、脳神経系の異常、内耳炎、緑内障などの目の病気が原因となっていることがあります。
これらの病気は、平衡感覚の異常、混乱、痛み、あるいは視覚の障害などを引き起こし、結果として旋回運動につながることがあります。
回る方向がいつもと違う、急に始まった、あるいは他の症状(元気がない、食欲不振、ふらつきなど)を伴う場合は、早めに動物病院を受診し、専門的な診断を受けることが極めて重要です。
□くるくる回るのを止める方法
犬がくるくる回る行動を無理に止めさせようとすることは、犬にとってさらなるストレスとなり、かえって問題を悪化させる可能性があります。
まずは、その行動の背景にある原因を冷静に理解し、愛犬が心身ともに健康で、安全に過ごせる環境を整えることが最優先です。
*安全な環境整備
犬がくるくる回っている最中に、家具の角や段差につまずいてケガをしないように、周囲の安全を確保することが重要です。
赤ちゃんのコーナーガードなどを活用して、家具の鋭利な角を保護したり、ぶつかっても危険なものは一時的に移動させたりするなどの対策を講じましょう。
また、床が滑りにくいように、コルクマットやタイルカーペットなどを敷くことも有効です。
滑りやすい床は、犬の足腰に負担をかけるだけでなく、転倒のリスクを高めます。
毛足の長いカーペットは、犬の爪が引っかかりやすく、思わぬ怪我につながる可能性があるため、避けるのがおすすめです。
*生活リズムの確立
規則正しい生活リズムは、犬の心身の健康を維持する上で非常に重要な要素です。
毎日の散歩の時間、食事の時間、そして就寝時間をできるだけ一定に保つことで、犬は安心感を得られ、精神的な安定につながります。
日中に適度な日光浴をさせることも、犬の体内時計をリセットし、夜間に落ち着きのない行動をとることを軽減するのに役立ちます。
ただし、愛犬が心地よさそうに眠っているのを無理に起こす必要はありません。
あくまで、愛犬の様子を見ながら、無理のない範囲で規則正しい生活を心がけることが大切です。
*獣医師への相談
犬がくるくる回る行動が続く場合、その原因を正確に特定し、適切な対処法を見つけるためには、獣医師の専門的な診断が不可欠です。
特に、徘徊が長時間に及ぶ場合、あるいは嘔吐、食欲不振、元気がない、ふらつきなどの他の症状を伴う場合は、迷わず早急に動物病院を受診しましょう。
愛犬がくるくる回っている様子を動画で撮影しておくと、獣医師が状態を把握する上で非常に役立ちます。
獣医師は、原因に応じた治療法を提案してくれるだけでなく、場合によっては旋回運動を軽減するための薬やサプリメントを処方してくれることもあります。
*サプリメント活用
病気やストレスが原因でくるくる回る行動が見られる場合、サプリメントが愛犬のサポートとなることがあります。
特に、高齢による認知症が疑われる場合には、脳の健康をサポートする成分(DHA、EPA、ビタミン類、ポリフェノールなど)を含むサプリメントが、行動の軽減に役立つ可能性があります。
しかし、サプリメントはあくまで補助的なものであり、病気の治療そのものの代わりにはなりません。
使用にあたっては、必ず獣医師に相談し、愛犬の体質や症状に合ったものを選ぶようにしましょう。
自己判断での使用は、かえって愛犬の健康を損ねる可能性があります。
□まとめ
犬がくるくる回る行動は、喜びの表現という微笑ましいものから、身体の不調、さらには見過ごせない病気のサインまで、実に幅広い原因が考えられます。
愛犬の様子を日頃から注意深く観察し、その行動の背景にある理由を理解しようと努めることが、愛犬とのより良い関係を築き、健康を守る上で最も重要です。
無理にその行動を止めさせようとするのではなく、まずは愛犬が安心して過ごせる安全な環境を整え、規則正しい生活リズムを維持することを心がけましょう。
原因が特定できない場合や、病気の可能性が疑われる場合は、決して自己判断せず、迷わず獣医師に相談し、専門的なアドバイスを受けるようにしましょう。
愛犬の健康と幸せのために、飼い主さんができる最善のサポートを愛情をもって提供していくことが大切です。