愛犬が突然、歩き方をかえたり、痛みを訴えるような仕草を見せると、飼い主としては心配になるものです。
特に腰に違和感があるように見える場合、「ぎっくり腰かもしれない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、犬の「ぎっくり腰」は人間でいうところの「急性腰痛症」とは異なり、正式な病名として確立されているわけではありません。
そこで今回は、犬が腰に痛みを感じているサインや、椎間板ヘルニアとの違い、そしてご自宅での対処法や予防策について解説します。
□犬のぎっくり腰の症状
犬が腰に痛みを感じている場合、飼い主が注意深く観察することで、そのサインに気づくことができます。
言葉で訴えることができない犬たちのために、どのような様子が見られるのかを知っておきましょう。
*腰の痛みのサイン
犬が腰に痛みを感じているとき、抱っこを嫌がったり、普段よりも動きが鈍くなったりすることがあります。
また、腰を丸めてじっと動かない、痛みをこらえているかのように震える、食欲が低下するといった様子が見られることもあります。
これらのサインは、腰に何らかの不調がある可能性を示唆しています。
*歩き方の変化
腰の痛みは、歩き方にも変化をもたらします。
後ろ足に力が入らないように見えたり、歩くこと自体を嫌がるようになることがあります。
足の甲を地面につけて歩くような、不自然な歩き方をする場合は、神経に異常が出ている可能性も考えられます。
このような症状は、単なる腰痛以上の問題を示唆している場合があるため、注意が必要です。
◻︎ぎっくり腰と椎間板ヘルニアの違い
犬の「ぎっくり腰」と似た症状を示すものに、椎間板ヘルニアがあります。
これらは原因や発症メカニズム、症状の現れ方に違いがあります。
*原因と発症メカニズム
「ぎっくり腰」は、検査で明確な異常が見つからないものの、急に発症した腰痛を指すことが多いです。
その原因は特定されていませんが、急激な動きや負担によって筋肉や関節に炎症が起こることが考えられています。
犬の椎間板ヘルニアは、加齢や遺伝的要因、肥満、運動不足などが複合的に関与して発症すると考えられています。
特に、胴が長く足が短い犬種(ミニチュアダックスフンド、コーギーなど)は、遺伝的に椎間板ヘルニアになりやすい傾向があります。
椎間板ヘルニアは、背骨のクッションである椎間板が本来あるべき位置から飛び出し、脊髄を圧迫することで神経症状を引き起こす疾患です。
この圧迫の程度や場所によって、現れる症状は大きく異なります。
*症状の比較
「ぎっくり腰」と診断されるような急性の腰痛は、多くの場合、検査で異常が特定できません。
そのため、治療は対症療法として痛み止めの薬と安静が中心となります。
一時的なものであれば、1〜2週間程度で回復が見込めることもあります。
ただし、痛みの原因が不明確なため、再発のリスクも考慮する必要があります。
椎間板ヘルニアの場合、神経学的検査や画像検査(X線、CT、MRIなど)によって異常を特定し、診断されます。
症状が軽度であれば安静や投薬で改善することもありますが、重度の場合や神経麻痺を伴う場合は、手術が必要となることもあります。
足が思い通りに動かない、足先が痺れる、麻痺するなど、神経症状を伴う場合は椎間板ヘルニアの可能性が高まります。
また、排尿・排便のコントロールができなくなることも、椎間板ヘルニアの重篤な症状の一つです。
椎間板ヘルニアは、早期発見・早期治療が予後を大きく左右するため、慎重な判断が求められます。
◻︎犬のぎっくり腰の対処法
愛犬が腰の痛みを訴えているように見える場合、まずは落ち着いて適切な対処を行うことが大切です。
*自宅でできること
「ぎっくり腰」と診断された場合、自宅ではまず安静を保つことが最優先です。
無理な運動は避け、静かに過ごせる環境を整えましょう。
痛み止めの薬が処方されている場合は、獣医師の指示通りに与えてください。
床が滑りやすい場合は、マットを敷くなどして足腰への負担を軽減することも有効です。
抱っこする際も、腰に負担がかからないように、優しく支えるようにしましょう。
食事や水の用意も、無理なくアクセスできる場所に置くなどの配慮が大切です。
排泄の補助が必要な場合は、無理のない範囲でサポートしてください。
*受診の目安
犬が腰の痛みを訴える場合、自宅での様子観察だけでは判断が難しいこともあります。
特に、以下のような症状が見られる場合は、早めに動物病院を受診することをお勧めします。
- 痛みが1〜2日以上続く、または悪化している
- 足がふらつく、歩き方がおかしい、足を引きずる
- 足が動かせない、麻痺している様子が見られる
- 食欲がない、元気がない
- 排泄が困難になっている
これらの症状は、椎間板ヘルニアなどのより深刻な疾患が隠れている可能性を示唆しています。
早期に診断を受け、適切な治療を開始することが、愛犬の回復を早めるために重要です。
獣医師は、問診、触診、神経学的検査、必要に応じて画像診断を行い、正確な診断を下します。
診断に基づき、内科的治療(投薬、安静)、外科的治療、リハビリテーションなど、個々の状態に合わせた最適な治療計画を提案します。
◻︎ぎっくり腰予防のポイント
犬の「ぎっくり腰」は原因不明な部分もありますが、日頃のケアでリスクを減らすことは可能です。
*体重管理の重要性
肥満は、犬の腰や関節に大きな負担をかけます。
適正体重を維持することは、ぎっくり腰だけでなく、様々な病気の予防にもつながります。
食事管理と適度な運動で、愛犬の体重を健康的にコントロールしましょう。
過体重は、椎間板への圧力を増大させ、椎間板ヘルニアのリスクを高めます。
獣医師と相談しながら、愛犬に最適な食事内容と量を見つけることが大切です。
また、運動についても、無理のない範囲で継続できるように工夫しましょう。
*適度な運動習慣
適度な運動は、筋肉を維持し、関節の健康を保つために不可欠です。
ただし、過度な運動や、急激な負荷がかかるような激しい運動(高いところからの飛び降り、激しいジャンプなど)は避けましょう。
犬種や年齢、体力に合わせた、無理のない運動習慣を心がけることが大切です。
また、フローリングなど滑りやすい床は、足腰に負担をかける可能性があるため、マットを敷くなどの工夫も有効です。
階段の上り下りを減らすために、スロープを設置することも検討しましょう。
定期的な健康診断を受け、体の状態を把握することも、予防につながります。
□まとめ
犬の「ぎっくり腰」は、正式な病名ではありませんが、急性の腰痛として犬にも起こりうる状態です。
痛みのサインや歩き方の変化に注意を払い、椎間板ヘルニアなどの重篤な疾患との見分けを正しく行うことが重要です。
自宅での安静や環境整備も大切ですが、症状が長引いたり、神経症状が見られる場合は、迷わず動物病院を受診しましょう。
日頃からの体重管理や適度な運動、床の滑り止め対策といった予防策を講じることで、愛犬の腰の健康を守ることができます。
愛犬がいつまでも元気に走り回れるように、日頃から愛犬の様子をよく観察し、健康管理に努めましょう。